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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)1025号 判決

控訴人

本間正

右訴訟代理人弁護士

神崎敬直

被控訴人

株式会社ウッドベルスコープ

右代表者代表取締役

鈴木幸夫

右訴訟代理人弁護士

浅井和子

山森克史

被控訴人

鶴巻昌平

被控訴人

堀江忍

被控訴人

大槻睦美

右三名訴訟代理人弁護士

秋山幹男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は「一 原判決を取り消す。二 1(主位的請求)被控訴人らは控訴人に対し各自金五〇〇〇万円及びこれに対する被控訴人鶴巻、同堀江、同株式会社ウッドベルスコープは昭和五三年二月五日から、被控訴人大槻は同月七日から各完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。2(予備的請求)被控訴人株式会社ウッドベルスコープ(以下「被控訴会社」という。)は控訴人に対し金一三三六万三〇〇〇円の支払をせよ。三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人らはいずれも控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者の主張

1  請求原因

(主位的請求)

主位的請求の請求原因事実は、原判決事実摘示(原判決二枚目裏一一行目から同六枚目表六行目まで)と同一であるからこれをここに引用する。

(予備的請求)

仮に被控訴会社に対する主位的請求が棄却されるときは、控訴人は被控訴会社に対してのみ、予備的請求として、次の預託金返還の請求をする。

すなわち、主位的請求原因に記載したとおり、控訴人は、昭和四九年一二月一九日から同五〇年一月一四日までの間に三回にわたり、被控訴会社の代表取締役、常務取締役又は使用人である被控訴人大槻、同堀江又は同鶴巻を通じ、被控訴会社に合計一億円を交付し預託した。その趣旨は、被控訴会社に本件土地の買受と転売の仲介を委託し、その買受代金に充てるものとして預託したのであつた。控訴人は昭和五〇年六月一三日被控訴会社のあつせんにより主位的請求原因に記載のとおりハワイ法人バジェットリアルティ社から本件土地一二区画を代金八五万二〇〇〇ドルで買い受けたが、右代金の一部に充当するため同社から借り受けた金六三万九〇〇〇ドル及びその利息を弁済期である昭和五一年六月一三日までに返済できず、このため、同社から右売買を解除された。これによつて、被控訴会社は本件土地一二区画のうち転売ができた三区画を除く残余の九区画について転売のあつせんができなくなり、控訴人の委託は終了するに至つた。ところで、被控訴会社は、右預託を受けた金一億円のうち売主側に交付された八二七三万七〇〇〇円(二六万一〇〇〇ドル、一ドル三一七円で換算)及び別件の土地の残代金三九〇万円を控除した、残金一三三六万三〇〇〇円を勝手に本件取引の仲介手数料として取得した。控訴人は、被控訴会社に対し、本訴においては、前記の八二七三万七〇〇〇円及び三九〇万円については返還を請求しないが、右残金一三三六万三〇〇〇円についてその返還支払を求める。

2  請求原因に対する答弁

(一)  被控訴人鶴巻、同堀江、同大槻(以下「被控訴人三名」という。)

被控訴人三名の答弁は、原判決事実摘示(原判決七枚目表一一行目から同一〇枚目表五行目まで、ただし、原判決八枚目裏一〇行目「原告主張の約定で」の次に「(ただし、残額の支払は、貸付金とするのでなく、売買代金を分割して支払うというものである。)」を加え、同九枚目裏一〇行目「米国でも」を削除する。)と同一であるからこれをここに引用する。

(二)  被控訴会社

A(主位的請求原因に対する答弁)

(1) 請求原因1の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(2) 仮に被控訴人三名に控訴人主張のような行為があつたとしても、それは右被控訴人らの個人的行為であつて被控訴会社としてしたものではない。右被控訴人らが被控訴会社とは無関係に個人として行つたとの事実は控訴人も十分承知していた。

(3) また、本件は、控訴人が本件土地を購入する第一の取引とこの購入した土地の転売行為である第二の取引とは区別して考察すべきであつて、被控訴会社は第二の取引である転売行為に関係したにすぎない。また被控訴会社は一年以内に本件土地全部を転売し切る旨の約定をした事実はない。控訴人は右第一の取引により本件土地の所有権を取得し、その登記を経由していながら、残代金の支払を怠つたために頭金を没収されたものであつて、その損害と被控訴会社の右転売行為とは因果関係はない。

B(予備的請求原因に対する答弁)

(1) 予備的請求原因事実を否認する。

(2) 一億円を預つた行為は被控訴人三名の個人的行為であつて被控訴会社とは無関係である。

3  予備的請求原因に対する抗弁

仮に、被控訴会社が控訴人から合計一億円を預つたとしても、控訴人の主張する一三三六万三〇〇〇円は次のとおり、控訴人と被控訴会社との合意により、同会社が本件土地買受の仲介手数料として取得したものである。

控訴人は、昭和四九年一二月ころ、被控訴会社にその仲介でハワイ州オアフ郡カイルアの住宅地を買受けることを委託し、一億円を買受代金を含む事務処理費用及び被控訴会社の仲介手数料等として被控訴人大槻、同堀江、同鶴巻らに交付したが、その頃、右被控訴人らは被控訴会社が買受仲介手数料として買受価格の五パーセントを取得すること及び三九〇万円は控訴人の買受けた別件の売買残代金に充当することで控訴人の承諾を得た。右被控訴人らはその頃右金員のうち八二七三万七〇〇〇円を買受代金等の支払に充てるため売主側のジェームス吉村及び仲介人トーマス久子に交付し、金三九〇万円を控訴人が昭和四九年一〇月に買受けたハワイアンパラダイスパークの残代金の支払いに充当した。その後、右買受委託物件は被控訴会社と控訴人との合意によりカイルアの物件から本件土地に変更されたが、その際、買受委託物件の価格はほぼ同額であつたので、右一億円の預託の趣旨もカイルアの物件の場合と同様とし、買受仲介手数料も前同様とすることで両者の合意をみた。そして、被控訴会社の仲介により本件土地の売買が代金八五万二〇〇〇ドルで成立した。八二七三万七〇〇〇円(二六万一〇〇〇ドル、一ドル三一七円で計算)のうち二一万三〇〇〇ドルは本件土地の売買の頭金として支払われ、四〇〇〇ドルは仲介人トーマス久子が取得し、残額四万四〇〇〇ドルは、控訴人に返還され、一億円から前記の三九〇万円及び右八二七三万七〇〇〇円を控除した残額一三三六万三〇〇〇円は、被控訴会社が仲介手数料として取得した。右手数料額は、一ドル三一七円で計算すると買受価格の五パーセント内である。

4  抗弁に対する答弁

抗弁事実のうち、控訴人が被控訴会社にその仲介でハワイ州オアフ郡カイルアの住宅地を買受けることを委託し、総額一億円を被控訴人大槻ら三名に交付したこと、買受委託物件が控訴人と被控訴会社との合意によりカイルアの物件から本件土地に変更されたこと、八二七三万七〇〇〇円のうち二一万三〇〇〇ドルが本件土地の売買の頭金として支払われたこと、本件土地の売買が代金額八五万二〇〇〇ドルで成立したこと、円とドルの換算値を一ドル三一七円で計算すること、被控訴会社が一三三六万三〇〇〇円を仲介手数料として取得したことは認めるが、一億円の預託の趣旨、買受仲介手数料として売買代金の五パーセントを取得する旨の約定があつたこと、四万四〇〇〇ドルが控訴人に返還されたことは否認する。

5  再抗弁

(一)  本件は、買主の資金が足りず他から借金して土地を買入れこれを分譲しようとしたものであるが、このような場合、不動産業者は最初の取引の手数料をとると取引がまとまらないので、最初の取引の手数料は分譲の利益のなかから支払うという特約をする場合があるが、本件においても最初の取引の手数料は本件土地の分譲の利益のなかから支払うという特約があつた。

(二)  仮に、被控訴人らにおいて控訴人が本件土地を購入することにつき仲介手数料を請求することができるとしても、当事者が日本人であるから宅地建物取引業法が適用され、同法に規定する正当な仲介手数料は、八一六万二五二〇円となるから、右預り金一三三六万三〇〇〇円より右八一六万二五二〇円を差引いた残額五二〇万〇四八〇円は控訴人に返還すべきである。

また、被控訴会社は本件預り金一億円の内から本件土地売買の仲介人であるハワイの不動産業者トーマス久子に仲介手数料一五二一万六〇〇〇円(四万八〇〇〇ドル。一ドル三一七円で換算)の支払をしているが、同人は被控訴会社が委嘱した仲介人であるから、この手数料は被控訴会社の負担とすべきものであり、控訴人が本件土地買受に関して更に手数料を支払うとなると、結果的に一割を越す仲介手数料を支払うこととなり、これは異常に高額となつて不当である。

6  再抗弁に対する答弁

(一)  再抗弁事実を否認し、その主張を争う。

(二)  宅地建物取引業法は、日本の領土内で施行される法であるから我国内に存する不動産の取引を規制したものである。従つて外国の土地の取引である本件取引には適用はない。

(三)  控訴人は、我国での仲介手数料の相場に比較して本件仲介手数料が高額すぎるかのように主張するが、我国の場合でも売買の代理の場合には六パーセントの手数料が認められており、また、本件土地が国外にあり、被控訴人らの物件の照会、現地調査、連絡、現地案内等を考察すれば、決して高額にすぎるものではない。

なお、米国においては不動産売買仲介手数料について公的な規制はなされていないが、実際には最低でも五パーセント以上の手数料が授受されており、一〇パーセントから二〇パーセントの手数料が授受されることもあるのが実情である。

三  証拠〈省略〉

理由

一まず、ハワイ法人バジェットリアルティ社を売主とし控訴人を買主とする本件取引に至る経緯、本件取引の内容及びその後の事情について検討する。

〈証拠〉を総合し、弁論の全趣旨を併せ考えれば次の各事実が認められる。

1  控訴人は、本件取引当時、名古屋市にある本間製パン株式会社の代表取締役であつたが、その後昭和五一年八月退社した者であり、被控訴会社は、昭和四七年ごろから海外不動産取引の自由化にともない海外不動産の売買、仲介をも業とするようになつた会社であり、被控訴人鶴巻は本件取引当時同会社の代表取締役であつたが、昭和五〇年一二月に退社した者であり、被控訴人堀江は本件取引当時同会社の常務取締役営業部長であつたが、昭和五一年一月退社し、そのころ海外不動産の売買仲介などをなす株式会社イーデンの代表取締役に就任した者であり、被控訴人大槻は本件取引当時被控訴会社の海外部主任であつたが、昭和五一年一月退社し、前記の株式会社イーデンの常務取締役に就任した者である。(以上の事実のうち、主位的請求原因1記載の事実は、当事者間に争いがない。)

2  控訴人は、昭和四八年七月被控訴会社から同会社所有のハワイ州ハワイ郡ブナ地区にある二エーカーの土地を代金三六九万六〇〇〇円で買い受けたのを初めとして、同年一〇月被控訴会社から同会社所有のカリフォルニア州カーン郡にある一〇エーカーの土地を訴外尾頭一と共同で代金一一八三万六〇〇〇円で買い受け、更に昭和四九年一〇月被控訴会社の現地法人であるウッドベルハワイコーポから同法人所有の前記ハワイ州ブナ地区にあるパラダイスパークのブロック一一、ロット七七(〇・三七エーカー)の土地を日本総代理店である被控訴会社を通じて買い受け(なお、右買受代金は被控訴会社において受領することと定められた)、同会社の顧客として、被控訴人堀江、同大槻、同鶴巻らと知り合うようになつた。

3  被控訴人堀江、同大槻は、昭和四九年一〇月ころから、被控訴会社の取締役又は従業員として、再三にわたり、控訴人に対し、一億円を用意すれば、ハワイで二億円位の融資を得られるので、三億円を投資してホノルル近郊の土地を買い、分譲すれば極めて有利な利殖になるし、その分譲には被控訴会社がこれにあたるなどと勧誘したところ、控訴人から一億円できるが、税務対策その他の関係から内密に取引をしたい希望を示されたため、被控訴人鶴巻、同堀江、同大槻ら三名は協議の末、被控訴会社の帳簿に記載したり、同会社名義の文書を作成することを極力避けることとした。控訴人は、同年一二月一九日ごろ名古屋市において被控訴人大槻を通じ被控訴会社にハワイ州カイルアの土地一〇区画(計九万二四七五平方フィート)を約三億円で買受けることの仲介及び右約三億円のうち約二億円はハワイで融資を受けることの仲介を委託すると共に一億円は右買受代金を含む事務処理費用及び仲介手数料として控訴人において被控訴会社に預託する旨を約し、被控訴人大槻に右一億円のうち三〇〇万円を交付し、同人から同会社作成名義の領収書の交付を受けた。なお、その際、被控訴人大槻は、控訴人から預託金一億円のうちから前記ハワイアンパラダイスパークの売買残代金三九〇万円を被控訴会社において取得すること及び買受について仲介手数料を買受価格の五パーセントとすることの承諾を得た。控訴人は、同月二六日被控訴人堀江、同大槻両名に三〇〇〇万円を、昭和五〇年一月一四日被控訴人鶴巻、同大槻両名に六七〇〇万円をそれぞれ名古屋市内において現金で交付し、合計一億円を被控訴会社に預託した。

4  そして、被控訴会社は、右金員のうち三九〇万円を昭和五〇年一月八日に前記ハワイアンパラダイスパークの残代金として充当取得し、昭和五〇年一月内金八二七三万七〇〇〇円(二六万一〇〇〇ドル、円とドルの換算値は一ドル三一七円とする。この換算値については当事者間に争いがない。以下同じ。)をカイルアの土地の売主となるべきアイランドフェデラル銀行の社長であるジェームス吉村と売主側の仲介人トーマス久子に売買契約成立の際にはカイルアの土地買受代金等に充てることとして交付した。

5  ところが、被控訴人堀江、同大槻は、昭和五〇年二月ごろ前記ジェームス吉村から控訴人が買受を予定していたカイルアにある土地は買主が一年以内に家を建てなければならないとの法的規制のある土地である旨の情報を得たため、控訴人が右土地を買い受けるのは適当でないと判断し、控訴人にその旨を告げて、右土地の買受けを中止するように申し出たうえ、これと同様の条件にある本件土地の買受方を勧めるに至り、控訴人も同年春ごろにはこれを了承し、カイルアの土地の買受仲介委託における前記の約定と同旨の約定で、前記の預託金の趣旨及び仲介手数料についても同旨の約定で被控訴会社に日本国内において本件土地の買受仲介を委託した。なお、その頃、控訴人は被控訴人堀江、同大槻から頭金はトーマス久子らに交付ずみの八二七三万七〇〇〇円のうちから充当することとし、本件取引については円とドルの換算値は一ドル三一七円とすること及び本件土地の買受については、残金約二億円は一年内に支払わねばならぬこととなる旨を告げられたが、控訴人はこれらを了承した。

6  控訴人は、昭和五〇年六月一二日ハワイに行き、本件土地を見分した上で、翌一三日ホノルル市のハワイ銀行エスクロー部において、ハワイ法人バジェットリアルティ社の社長であるリチャードYHミューとの間で公証人立会の下に本件土地売買契約を締結し、ここに被控訴会社の仲介によつて、控訴人は本件土地を買受けるに至つた。

右売買契約の骨子は、次のとおりである。

すなわち、バジェットリアルティ社は、昭和五〇年六月一三日控訴人にホノルル市ニューバレーハイランド二号地一二区画(本件土地計九万七七一八平方フィート)を代金八五万二〇〇〇ドルで売却し、その代金支払方法は、同日二一万三〇〇〇ドル、残金六三万九〇〇〇ドルは昭和五一年六月一三日までに支払うこと、右残金の支払いを一〇日以上怠つたときは売主は直ちに本契約を解除することができ、この場合売主は支払を受けた金員全額を損害金等に充当するため保留することができること、本件土地については代金完済までは買主に所有権が移転することはないが、一区画について七万一〇〇〇ドルとこれに対する未払利息を支払うときは、買主においてその区画につき所有権を取得することができるというのである。

なお、その際、控訴人は、右契約内容について、控訴人の代理人となつたトーマス久子から日本語で説明を受けてこれを了承し、右契約の当事者として署名をし、また頭金二一万三〇〇〇ドルについては、先にカイルアの土地の買受代金のためにトーマス久子らに交付されていた八二七三万六〇〇〇円(二六万一〇〇〇ドル)のうちから二一万三〇〇〇ドルの返還を受けたうえバジェットリアルティ社に支払つた。

7  右契約成立後、控訴人は、ただちに被控訴会社に本件土地の分譲の仲介を委託すると共に、転売の仲介手数料を一区画につき七〇〇〇ドルと定め、また同月一六日トーマス久子に本件土地の各区画の所有権取得、その取得のための借入、右区画についての抵当権の設定及び控訴人の指定する者への譲渡についての代理権を授与し、被控訴会社は、本件土地買受の仲介手数料として前記預託を受けた一億円の残金である一三三六万三〇〇〇円を取得した。

被控訴会社は、その後本件土地につき、ダイレクトメールやライオン誌に広告する方法で分譲しようと努力したが、結局三区画しか分譲することができず、そのため控訴人は約定の弁済期に残金の支払をすることができず、昭和五二年一月ごろ右売買契約は解除され、既に支払つた頭金等は売主の損害金等に充当された。

以上の事実が認められる。右認定にそわない〈証拠〉はたやすく措信しがたく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二主位的請求について

1  控訴人は、被控訴人鶴巻、同堀江、同大槻が、控訴人において英語に弱く、ハワイや米国の土地取引事情にうといことに乗じ、控訴人に対し、本件土地を一年以内に売切ることを保証するなど、甘言をもつて控訴人を欺罔した旨主張するが、右主張事実にそう〈証拠〉は、原審における〈証拠〉及び前記認定の事実に照してたやすく措信することができず、これを認めるに足る証拠はない。

もつとも、前記認定の事実によれば、本件土地の売買においては、控訴人は締結後一年以内に残代金六三万九〇〇〇ドルを支払うことと定められこのことはかねて被控訴人堀江、同大槻からも告げられて控訴人の了承したことであつたのであるが、〈証拠〉によれば、前記被控訴人三名は、控訴人には右残代金を支払える十分な資力があると信じていたことが認められるのであるから、本件土地の売買において右の約定があつたからといつて、被控訴人三名が本件土地を一年以内に売り切ることを保証したことを推認することはできない。また被控訴会社が控訴人から約二億円をハワイで融資を受けることの仲介を委託されていることは前叙認定のとおりであるが、本件土地の売買において残代金六三万九〇〇〇ドル(二億〇二五六万三〇〇〇円。一ドル三一七円で計算)は一年後に支払えば足りることが前記のとおりであるから、この点においても約二億円の融資について欺罔行為があつたことを推認することはできない。

2  右のとおり、控訴人主張の如き欺罔行為は認められないから、右欺罔行為を前提とする主位的請求は、その余の判断をするまでもなく理由がない。

三予備的請求について

1 控訴人がその主張のとおり被控訴人三名を通じ被控訴会社に総額一億円を交付し、被控訴会社の仲介により控訴人が本件土地を買い受け、被控訴会社が右金員のうち一三三六万三〇〇〇円を本件土地買受の仲介手数料として取得したことは前記一に認定したとおりである。被控訴会社は、これらの預託、仲介、手数料の取得は、被控訴人三名の個人的行為である旨主張するのであるが、前記一に認定した事実関係のもとにおいては、右主張は採用することができない。なお、〈証拠〉の作成名義が被控訴会社でなく、〈証拠〉に一億円の預り金の記載がないことは認められるが、これは前記一で認定したとおり、控訴人からの希望に被控訴会社の本件担当者である被控訴人三名が応じたことによるものであるから、これをもつて、被控訴会社の右主張を支持するものとすることはできない。

2  次に被控訴会社の仲介手数料について検討する。

前記一に認定した事実によれば、控訴人は被控訴会社に対し本件土地の買受のための仲介手数料として買受価格の五パーセントを取得することを承諾していたこと、本件土地の売買については、買受価格が八五万二〇〇〇ドルであるから、一ドル三一七円に換算して計算すると五パーセントの仲介手数料の額は一三五〇万四二〇〇円となり、被控訴会社の取得した仲介手数料一三三六万三〇〇〇円は右約定の金額の範囲内であることが認められる。

3  控訴人は、本件では特に土地の購入の仲介手数料は支払わず、分譲の時にその仲介手数料と共に支払う旨の特約があつた旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

4 次に控訴人は、本件土地の取引については宅地建物取引業法の報酬制限規定の適用を受ける旨主張する。

(一) 宅地建物取引業法四六条一項、昭和四五年建設省告示一五五二号によると、宅地建物取引業者が宅地の売買の媒介に関して依頼者の一方から受ける報酬額は、当該売買にかかる代金額二〇〇万円以下は一〇〇分の五以内、二〇〇万円をこえて四〇〇万円以下は一〇〇分の四以内、四〇〇万円をこえる額は一〇〇分の三以内としてその合計額と定められ、同条二項により宅地建物取引業者は、前記の額をこえて報酬を受けてはならないと定められている。

(二) ところで宅地建物取引業法は、昭和二七年当時第二次世界大戦によつて戦災、強制疎開等のため多大の損害を受けた国内の多数の都市において、建物特に住宅の需給が極度にひつ迫すると共に土地建物の取引がひん繁になつたが、宅地建物取引業者の不正行為がしばしば行われ、これを放置するときは、宅地及び建物の利用が阻害される結果となるので、事業の健全な発展を期すると共に、国民の宅地及び建物の利用を促進することを目的として立法されたもので、その目的は、国内における住宅政策の一環として制定されたものであり、その後種々社会事情の変遷と共に改正されることはあつたもののその目的は変つておらず、国内における住宅政策の一環として国内における宅地建物取引の適正な運営を目的とするものであること、また、同法二条一号は、宅地とはまず「建物の敷地に供せられる土地」をいうと定めており、国法の効力は原則としてその領土外の地域に及ばないから、右の宅地とは外国の土地を含まないものと解されること、及び同条同号は都市計画法八条一項一号の用途地域内の土地(ただし、道路、公園、河川、その他政令で定める公共の用に供されているものを除く)をも建物の敷地に供せられる土地でなくても同法にいう宅地に含ましめ、当然に領土を前提にし、かつ宅地建物取引業法における免許、宅地建物取引主任者等の制度も国法における規制を前提としていること等を考慮すれば、宅地建物取引業法は外国の土地の取引には適用がないものと解される。

(三) そうすると、右法律の適用を前提とする控訴人の主張はその前提を欠き採用することができない。

5(一) また控訴人は、被控訴会社の右仲介手数料は高額にすぎ不当である旨主張するが、前記一認定のとおり、本件土地は国外にあり、その物件の照合、連絡、現地案内等に多額の費用を要することを考慮すれば被控訴会社が取得した右仲介手数料をもつて不当に高額であるとすることはできない。

(二)  なお、控訴人は、被控訴会社がトーマス久子にも仲介手数料一五二一万六〇〇〇円を支払つている旨主張するが、この事実を認めるに足る証拠はない。もつとも、前記認定の事実によれば、被控訴会社が控訴人から預託を受けた一億円のうち八二七三万七〇〇〇円(二六万一〇〇〇ドル)をトーマス久子らに交付し、このうち、二一万三〇〇〇ドルは本件土地買受の頭金として支出されており、また控訴人本人尋問の結果に弁論の全趣旨を併せ考えれば、控訴人は昭和五〇年二月頃被控訴人堀江を通じトーマス久子らから右二六万一〇〇〇ドルのうち四万四〇〇〇ドルの返還を受けていることが認められるのであるから、トーマス久子らの手許に留保された金員は約四〇〇〇ドルとなるにすぎない。

控訴人は、またトーマス久子が被控訴会社において委嘱した仲介人であるから、トーマス久子が取得した手数料は被控訴会社の負担とすべきものである旨主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はない。そして、原審における被控訴人大槻本人尋問の結果によれば、トーマス久子は、被控訴会社が委嘱した仲介人でないことが認められるばかりでなく、前記一に認定した事実によれば、控訴人は本件土地の買受後トーマス久子に本件土地の各区画の所有権取得、譲渡等についての前記認定の代理権を授与しているのであるから、仮にトーマス久子が前示の約四〇〇〇ドルを手数料として取得したとしても、これが被控訴会社の負担とされるいわれはないものといわざるをえない。

よつて、控訴人のこの主張も採用することができない。

6  以上の認定判断によると、控訴人主張の預け金返還の予備的請求は理由がない。

四よつて、控訴人の本訴各請求はいずれも棄却すべきであり、これと同旨にでた原判決は相当であつて(なお、原審における予備的請求は当審において一部取り下げられた)、本件控訴は理由がないから民訴法三八四条により本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官柳川俊一 裁判官近藤浩武 裁判官三宅純一)

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